大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成9年(わ)966号・平9年(わ)1236号・平9年(わ)2338号

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。(公判出席検察官新河隆志、石神千織)

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人は、岐阜市清七五六番地に居住してその所有する土地を売却した森島和子から依頼されて同人の代理人としてその所得税の申告手続に従事した野口規子の依頼を受けて、坂本行徳こと坂本幸則及び森本拓美とともに森島和子の所得税の申告手続に関与したものであるが、野口規子、坂本幸則及び森本拓美と共謀の上、森島和子の平成四年分の所得税を免れようと企て、架空の保証債務を作出し、その履行を仮装して不動産譲渡所得を圧縮する方法で所得を秘匿した上、森島和子の平成四年分の実際の総所得金額が一六二万八二三一円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六七八二万四五一三円であったのに、平成五年三月一日、岐阜市加納清水町四丁目二二番地の二所在の所轄岐阜南税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一九八万五一三六円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が三〇〇万五三七五円で、これに対する所得税額が一〇一万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、森島和子の正規の所得税額二〇四二万三二〇〇円と右申告税額との差額一九四一万円を免れた(別紙<1>修正損益計算書及び別紙<2>脱税額計算書参照)。

第二  被告人は、岐阜市長良二四三五番地の一九一に居住してその所有する土地を売却した岡田まつゑから依頼されて同人の代理人としてその所得税の申告手続に従事した森秀子の依頼を受けて、前記坂本幸則及び小菅誠とともに岡田まつゑの所得税の申告手続に関与したものであるが、森秀子、坂本幸則及び小菅誠と共謀の上、岡田まつゑの所得税を免れようと企て、不動産の売却に伴う架空の取りまとめ依頼・相談料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、岡田まつゑの平成六年分の実際の総所得金額が零円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六四八二万六九五七円であったのに、所得税の確定申告期限の経過後である平成七年五月二三日、岐阜市千石町一丁目四番地所在の所轄岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が零円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が一二一一万三七八三円で、これに対する所得税額が二八二万三一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、岡田まつゑの正規の所得税額一七三二万七八〇〇円と右申告税額との差額一四五〇万四七〇〇円を免れた(別紙<3>修正損益計算書及び別紙<4>脱税額計算書参照)。

第三  被告人は、岐阜県本巣郡巣南町一七条八四九番地に居住してその所有する土地を売却した加藤輝夫から依頼されて同人の代理人としてその所得税の申告手続に従事した加藤辰美の依頼を受けて、前記坂本幸則及び小菅誠とともに加藤輝夫の所得税の申告手続に関与したものであるが、加藤辰美、坂本幸則及び小菅誠と共謀の上、加藤輝夫の所得税を免れようと企て、不動産の売却に伴う架空の取りまとめ料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、加藤輝夫の平成七年分の実際の総所得金額が二二一万一二〇〇円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六三三三万八〇〇円であったのに、平成八年三月一五日、所轄の前記岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が二二一万一二〇〇円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が九七八万円で、これに対する所得税額が二五四万六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、加藤輝夫の正規の所得税額一七〇九万四六〇〇円と右申告税額との差額一四五五万四〇〇〇円を免れた(別紙<5>修正損益計算書及び別紙<6>脱税額計算書参照)。

(証拠の標目)

括弧内の記号番号は、検察官請求証拠の記号番号(番号は記録上算用数字)である。検察官に対する供述調書は「検察官調書」、大蔵事務官に対する供述調書である質問てん末書は「大蔵事務官調書」と記載する。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

判示第一の事実について

一  被告人の検察官調書(乙一八)

一  森島和子(甲五〇)、野口規子(二通。甲五一、五二)、森本拓美(甲五三)及び坂本幸則(甲五四)の各検察官調書(各謄本)

一  河嶋孝(甲五五)及び小森鈴生(甲五六)の各大蔵事務官調書(各謄本)

一  検察事務官作成の証拠品複写報告書(謄本。甲五九)

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(謄本。甲四〇)、査察官調査書六通(各謄本。甲四二ないし四七)及び脱税額計算書(謄本。甲四八)

一  岐阜県揖斐郡大野町長の証明のある住民基本台帳(謄本。甲四一)

一  登記官作成の全部事項証明書(謄本。甲四九)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官調書二通(乙一六、一七)

一  中平雅昭(甲二九)、若山輝男(甲三〇)、坂本幸則(甲三一)、小菅誠(甲三二)、岡田まつゑ(甲三四)及び森秀子(二通。甲三六、三七)の各検察官調書(各謄本)

一  岐阜北税務署長作成の証明書(謄本。甲二二)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書六通(甲二八。各謄本で甲二三ないし二七)及び脱税額計算書(謄本。甲五八)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官調書二通(乙一二、一三)

一  分離前の相被告人加藤輝夫の検察官調書二通(乙一、二)

一  分離前の相被告人加藤辰美の検察官調書三通(乙七、八、九)

一  森本拓美(甲一〇)、森さとみ(二通。甲一一、一二)及び中平雅昭(甲一三)、坂本幸則(三通。甲一五ないし一七)及び小菅誠(甲二〇)の各検察官調書(各謄本)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五通(各謄本。甲二ないし六)

一  岐阜北税務署長作成の証明書二通(各謄本。甲八、九)

(法令の適用)

一  罰条 判示各所為につきそれぞれ所得税法二四四条一項、二三八条一項

判示第一、第二の各所為については更に平成七年法律第九一号による改正前の刑法六五条一項、六〇条、判示第三の所為については更に刑法六五条一項、六〇条

二  刑種の選択 いずれも懲役刑及び罰金刑を選択

三  併合罪の処理 懲役刑について刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

罰金刑について同法四八条二項(各罪所定の罰金額を合算)

四  労役場留置 刑法一八条

五  懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人が、脱税の請負をしていた共犯者の坂本に依頼者を紹介し、坂本らと共謀して、依頼者三名の合計四八五〇万円近くの所得税の脱税に関わった所得税法違反の事案であり、被告人は、こうした脱税請負に関与することによって多額の報酬を得ていたものである。こうした犯行は、国民の税負担の不公正感を増大させ、ひいて納税意欲を減退させることになるもので、被告人の刑事責任は重い。

他方、被告人には、自己の行為を率直に反省していること、前科がないこと、贖罪寄付をしていること、受け取った報酬について本件発覚後に修正申告等をしてその納税に努めていること、依頼者の一部に損害金を支払っていること、妻が今後の更生に協力することを申し出ていること、犯行を主導したのは共犯者の坂本であることなどの、量刑にあたって被告人のために考慮すべき事情もある。

こうした事情及び記録にあらわれたその他の諸事情を総合考慮して、主文の刑を量定し、懲役刑については特に刑の執行を猶予することとする。

(裁判官 三宅俊一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!